医療者から見た地域医療のいま

終末期のがん患者に対する在宅緩和ケア
これからの在宅医療の問題を考えるモデルに

2012. 04. 06   文/梅方久仁子

さくさべ坂通り診療所 大岩孝司医師

質の高いケアがあれば、
患者さんは落ち着いて暮らせる

在宅でのがん患者への緩和ケアを専門にする診療所は珍しいように思いますが、一般的になってきているのでしょうか。

大岩 一般的な在宅医療を専門にする診療所は増えていますが、がんの緩和ケアを専門または中心にしているところは、まだ少ないと思います。でも全国的にはある程度の数が存在していて、私たちのところだけというわけではありません。

 昨年の8月にそういった診療所が集まって、PCC連絡協議会という組織を作りました。PCCとは「Palliative Care Clinic」、つまり「緩和ケア診療所」です。そこには今、全国で25の医療機関が加入しています。

がんの終末期というと、大変重篤な状態だと思うのですが、在宅でのケアは問題ないのでしょうか。

大岩  がんで亡くなっていくわけですから、もちろん楽なはずはありません。ただ、質の高いケアさえ受けられれば、多くの人が考えるような耐えがたい苦しみなどは、まったくありません。質の高いケアが提供されると患者さんの状態は落ち着いているので、亡くなる1カ月くらい前までは、体力は落ちていくものの普通に生活できます。状態がひどく悪くなるのは、亡くなる前のほんの1、2週間くらいのことだと思います。

 私たちはひとり暮らしの方をケアすることも多いのですが、大きな問題なく看取れています。一人暮らしの方は患者さん本人に対するケアだけで、家族へのケアが必要ない分、むしろ対応が楽なくらいです。

 ただ、質の高いケアを提供するには、非常に専門的なノウハウが必要です。質の高いケアが得られないと患者さんの具合が悪くなって何度も往診が必要になり、医療者側が疲弊してしまい在宅療養の継続が困難になってしまいます。