医療者から見た地域医療のいま

終末期のがん患者に対する在宅緩和ケア
これからの在宅医療の問題を考えるモデルに

2012. 04. 06   文/梅方久仁子

さくさべ坂通り診療所 大岩孝司医師

チーム体制なので、質の高いケアを提供できるわけですね。

大岩 そうです。1人の医師がいくら頑張っても、体力的・物理的な限界があるので、質の高いケアを提供することができません。

 個人プレーには、継続性の問題もあります。先ほどのがんセンターの資料では、A群の診療所の1つは一時期年間50人くらいの患者さんを受け入れていたのですが、ある時点から、急に減って年間数名にまで落ち込んでしまいました。熱心にやっていた医師が体調を崩して辞めてしまったからです。

 私のところも医師は実質私1人ですから、もし私が体調を崩せば、まったく診られなくなってしまいます。継続性という点からは、診療所内だけではなく、地域での体制づくりや人材育成も重要だと思います。 

がんの在宅緩和ケアには専門的なノウハウがある

質の高いケアを提供するために、他に必要なものはありますか。

大岩 非常に専門的なノウハウが必要です。

 がんの在宅緩和ケアは、一般の高齢者の在宅医療とは、まったく異なります。普通の医療は、一生懸命頑張って、高度な医療や高度なケアを提供したときには、病気が治って生きることへとつながります。でも緩和ケアでは、残念ながらその結果、亡くなります。そのため対応の仕方が根底から違ってきます。

 例えば、患者さんが起き上がれなくなってベッドを使う必要があるとしましょう。一般的な高齢者では、ベッドを使って楽に起き上がれるようになると、起き上がる回数が増えて筋力がつき、また歩けるようになるかもしれません。そこで「立てませんか。それならベッドをレンタルしましょう」と気楽に勧められるわけです。

 しかし、がんの患者さんにとってベッドをレンタルすることは、「動けないぞ。もうすぐ死んでしまうぞ」という意味にもなります。こういった喪失感を他人から指摘されることで感じるショックは、患者さんにとって大変なものです。われわれは、患者さんにそういうことを突きつけないようにしながら、必要なものをどう活用し支援していくかを考えなくてはなりません。