医療者から見た地域医療のいま

災害時に地域の保健医療を守るには?
「普段からできること」と「地域の力」

2012. 02. 10   文/梅方久仁子

東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科・顎顔面外科学分野助教 中久木康一 氏

町内会パワーが地域を救った

支援活動で印象に残ったことはありますか。

中久木 たくさんありますが、石巻市の東にある水浜(雄勝町水浜)という集落の人たちの話を聞いて、大変感銘を受けました。

 ここにも津波が押し寄せたのですが、みんなで助け合って逃げたので、ほとんどの人が亡くならずにすんだと聞きました。普段から避難訓練をしていたそうですが、集落全体が知り合いで人のつながりが強かったことが大きかったと思います。例えば、「あそこの息子はこの時間は漁に出ているから、動けないおじいさんが1人で家にいる」ということを、近所の人がみんな知っているわけです。それで、動けない人は近所の人たちが車に乗せて、高台に逃げたそうです。漁に出ていた人たちは、あわてて家に戻ったりせずに、沖に避難したりして、ほとんど亡くならずにすんだとのことでした。

 その後も陸の孤島のようになって、何日も支援が届かずに大変だったのですが、みんなで手分けをして食料をかき集め、乗り切ってきたそうです。今もすごく大変な状況なのですが、「この町のおばさんたちは、笑顔が絶えない」と支援に来た人たちに驚かれるといいます。大変な目に遭っていても、周囲の人が亡くなっていないから、笑っていられるのだそうです。ほとんど亡くならずにすんだのは、集落全体での人のつながりが強くて助け合っているからだと思えました。

 地方の町内会パワーは、すごいなと思います。みんながお互いを知っているような関係は、ひょっとすると普段はちょっとうっとうしいかもしれません。でも、いざというときには、こういう地域コミュニティーの力が大きいのだなと実感しました。

2月16日、いすみ市で地域医療フォーラムが開催されます。インタビューにご登場いただいた中久木康一先生が講演されます。お近くの方はぜひともお立ち寄りください。

 夷隅郡市地域医療フォーラム
忘れない!3.11 ?東日本大震災の教訓?地域の力で被害を減らそう
  • 日時:
    平成24年2月16日(木)13:30?16:00
  • 場所:
    いすみ市大原文化センター
    (千葉県いすみ市大原783番地)
  • 参加費:
    無料(手話通訳あり)
  • フォーラム内容:
    ・講演1
     東日本大震災時における身体障害者の行動意識調査について
     御宿町身体障害者福祉会会長  滝口 仲秋 氏

    ・講演2
     災害時の保健医療支援活動 ?東日本大震災で露呈された課題?
     東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科・顎顔面外科学分野助教
     中久木 康一 先生