医療者から見た地域医療のいま
災害時に地域の保健医療を守るには?
「普段からできること」と「地域の力」
2012. 02. 10 文/梅方久仁子
大規模災害時に地域の保健医療を守るには、どうしたらよいのだろうか。中久木康一氏は大学病院で歯科医師として働きながら、さまざまな支援活動に参加し、大規模災害時における保健医療についての研究活動も行っている。そんな中久木氏に、東日本大震災後の支援活動の体験などをもとに、災害時の保健医療支援活動について伺った。
生活環境が悪くなると、
保健活動が必要になる
まずは被災地で活動をするようになったきっかけを教えてください。
中久木 被災地には以前から行きたいと思っていましたが、新潟県中越地震のときにはたまたま休暇が取れ、しかも友達の実家があのあたりにあったので、その友達と一緒に駆けつけました。
行ってみたら、家も道路も壊れていて、電気もガスも来ていません。トイレがないし、暖房もない。そういうふうに生活環境が悪いと、人は病気になっていきます。保健活動が必要な状況です。
災害時の保健医療支援というと、外科医や内科医のイメージがありますが、歯科医はどういう場面で活躍されるのですか。
中久木 まず、犠牲になられた方の歯形による身元確認の仕事があります。また、歯が痛い人、歯科に通院中だった人、義歯をなくしてしまった人には、すぐにも歯科医療が必要です。それから避難所生活で体調を崩す人が出てくるので、予防活動も必要です。特に嚥下障害がある高齢者や糖尿病の人、小児などの弱者は、口腔ケアが行き届かないと大きな問題につながりかねません。私は保健分野に興味があるので、保健支援活動に多く関わっています。
保健活動と医療活動とはどう違うのでしょうか。
中久木 病気になった人に対して、治療をして治そうとするのが医療活動で、生活を改善してそれ以上悪くならないようにしたり、自助努力を促して病気を予防するのが、保健活動です。
例えば熱が出て寝ている人が「トイレまで行くのがつらいから、水を飲まずにがまんしています」と話してくれたら、「じゃあ熱を下げましょう」と薬を渡すのが医療活動で、水分をとることの大切さを説明するのが保健活動です。
中越地震のときには、小千谷市は病院が機能しなくなって、医療支援が緊急の課題でした。それに対して長岡市は大病院が無事だったので、ある程度病院機能は維持できていましたが、大勢の人が避難所暮らしをしていて、保健支援活動が必要になっていました。それを放置しておけば、やがて病院に来る人が増えます。とにかく、病人が増えるのがまずいという思いがありました。