地域医療ニュース
高齢化と死の問題に真正面から向き合う
終末期医療に関するシンポジウム開催
2013. 05.21 文/大森勇輝
胃ろうを作成する病院医師の立場から
基調講演に続きシンポジウムならびに意見交換が行われた。以下、医療・福祉関係者6名の発表のポイントをまとめていこう。
まず、「胃ろうを作成する病院医師の立場から」と題して講演を行ったのは、東葛病院外科の濱砂一光医師である。濱砂氏が挙げた急性期疾患治療の問題点は次のものだ。すなわち、本来、嚥下機能評価→スタッフカンファレンス→本人・家族との話し合いというプロセスで決定するが、実際にはとくにスタッフ間の話し合いが十分ではなく、医師の判断の比重が大きいということである。
また、病院が抱える課題として、入院期間を短縮したいが本人・家族との話し合いが不十分で、とりわけ急性期は難しい。ゆえに、とりあえず次の施設へとなるが、本来なら、欧米の主治医制度などを参考に入院前から考え話し合っておくことが重要だとした。
胃ろう造設に関しても、現実問題として「仕方なく胃ろう」という消極的選択をせざるを得ないこともある。そして、当然のことながら患者の寿命は知りようがないため、胃ろうを造設するか否かジレンマに悩まされることとなる。だからこそ、今後、本人・家族、医療機関などが、事前に話し合っておくことこそ重要なのではないかとした。
2番目の講演は「在宅医療の果たした地域づくりへの役割」というテーマで、クリニックあしたばの中村宏医師が登壇。中村氏は1983年~1998年の鴨川市立病院勤務時代、在宅医療を通して行った地域づくりの取り組み、考え方について語った。
中村氏によると、鴨川市立病院時代、最期は自宅でという在宅医療を積極推進したことにより、地域住民の意識レベルの変革、地域社会の意識改革、行政の意識改革の3つを起こすことができたという。住民の看取りに対する意識が変化するとともに、高齢者や障がい者に優しい地域づくりなどに関する市への提案が増加。そして、もちろん地域の医療・福祉機関とともに行政も積極的に巻き込み、結果として県内初の保健福祉総合会館の創設を成し遂げたのである。つまり、病院主導の在宅医療の推進、そして行政、他の医療機関との連携により、地域全体が変わったというわけだ。
一方で、現在の在宅医という立場から、胃ろうについて安易な造設は認めない姿勢を明言。また、本人・家族の環境を考えるとともに、自分がもし患者だったらどうしたいのか、どうするのかということを考えるべきだと指摘した。終末期医療において、延命期間の長さより人生の充実を重視する人が増えている現状、尊厳死について、胃ろう造設問題は避けて通れない。だからこそ、「リビングウィル」、すなわち終末期の医療・ケアについての意思表示を家族に文書化して伝えるべきだと語った。そうすることが、自分のためだけではなく、家族、残された人のためにもなる。そうしたリビングウィルを残すということを啓蒙することなどを含め、胃ろう造設の前に取り組むべき課題が多いはずだとし、講演を締めくくった。