地域住民からのメッセージ

NPO法人地域医療を育てる会 理事長 藤本晴枝さんに聞く

地元の医療のために1つでもいいから自分でできることを

2011. 9. 1   文/梅方久仁子 写真/田村 充

「私たちがお医者さんを育てているんだ」

藤本晴枝 氏

「地域医療を育てる会」では機関誌の発行や講演以外にも様々な活動をされていますね。活動の内容とその目的を教えていただけますか。

藤本 2007年度から2010年度までは、東金病院と共催でレジデント(研修医)研修を実施しました。

 東金病院では医師不足解消のため、全国から研修医が来てくれる魅力のある研修プログラム作りに取り組みました。それは成功して、若い医師が集まり始めたのですが、患者から「若い先生ばかりで大丈夫?」という声が聞こえてきたんです。患者から疑いの目で見られては、せっかく集まった医師がやる気をなくしてしまうかもしれません。病院には「若手医師を長い目で見て、地域で育ててほしい」という思いがありました。

 でも「病院がこう言っているから協力してください」と伝えるだけでは、患者の側は「頼りなくてもがまんする」ことになってしまいます。せっかくだからそういう形ではなく、「私たちがお医者さんを育てているんだ」と実感できるような方法はないだろうか。そう考えて、コミュニケーションスキル養成のためのレジデント研修として提案しました。

 この研修は、「病気予防のための懇話会」という形で、若手医師に指導医立ち会いのもとで、病気についての説明をしていただきます。住民ボランティアの“医師育成サポーター”たちが、その話を聞いて、「ここがわからない」「テレビではこう言っていたけど、どうなんだ」といった質問をします。そのうえで、どのくらい話がわかりやすかったかなどを採点して、評価します。最初の説明は15分間で、全体では1時間とるので、かなりつっこんだやりとりもできます。若いお医者さんにとっては、わかりやすい説明方法の訓練になるというわけです。

 サポーターは、病気について知ることができ、勉強になります。しかも自分たちが協力してお医者さんを育てているんだと実感できます。人間的な交流も生まれて、みなさん、参加をとても楽しみにしてくださっています。

 若いお医者さんの側は、採点されるということもあって、最初のうちはとても緊張しています。でも、医師と患者という立場ではないのでリラックスして話せるし、わからないことはわからないと正直に言えます。診察室と違って、時間もかけられます。実際にやっているうちに、若い先生にとっても、たいへん魅力がある時間になるようです。「普通の人と話ができたのはとてもよかった」という感想を残した方もいらっしゃいました。診察室では、なかなか普通の関係にはなれないということでしょう。

 研修医とサポーターの双方にとても評判がよかったのですが、今年度(2011年度)は病院の都合で、1年間お休みすることになりました。実は東金病院に研修希望者が集まりすぎて指導医が足りず、余裕がなくなってしまったんです。お医者さんが増えたのはうれしいことですが、レジデント研修が休止になったのは、とても残念です。住民と医療者の接点はどこかで保っていきたいので、これからも現場に負担がかからないような形で、話をする機会を作っていきたいと思います。