医療者から見た地域医療のいま
「病気を診ずして、病人を診よ」を実践して40年
2012. 09. 05 文/梅方久仁子
当時は手術が必要な患者さんが多かったのでしょうか。
守 私が開業した頃は交通戦争と言われた時代で、交通事故の負傷者がよく運び込まれました。当時は他に病院がなかったこともあり、一番多いときで匝瑳市の救急搬送の15%くらいは、うちが受け入れていたでしょう。交通事故で一度に8人も運ばれてきたことがあります。そのときには、3人くらいの医師に応援を頼みました。病院に友達がいるから、緊急時には頼めば来てもらえました。そういう相互扶助のネットワークは、しっかりしていました。
今でも、外科以外も診るのでしょうか。
守 今は、診療科で医療機関を選ぶ患者さんが多くなりました。それに、例えば内科の病気の人が来たら、当座の薬を出したりはしますが、次は内科に行くようにと勧めています。でも、逆に内科の先生から褥瘡(じょくそう)の治療を頼まれて、私が往診することもあります。この地域では、それぞれの専門領域を活かした連携パスのようなものが、自然にできていると思います。
連携といえば、匝瑳の医師会では、在宅の寝たきりの方のために相互扶助のネットワークを作っています。例えば私が医師会の仕事で千葉に来ているときは、担当の患者さんに急変があっても対応できません。このネットワークでは、登録した患者さんが緊急のときには、まず主治医に連絡してもらいますが、主治医がいないときは緊急ネットワークの電話にかけると、当番医が出ます。登録患者のデータは医師会のサーバーに保存してあるので、当番医はそれを見て対応します。
当番医は、参加している医療機関が1週間交代で勤めます。また、ネットワークの医師が要請すれば無条件で対応してもらう約束が、匝瑳市民病院とできています。このネットワークは、当初12施設が参加しましたが、2012年4月の診療報酬改定で10施設未満に制限されたため、現在では9施設が参加しています。
患者さんのほうが、気を遣ってくれる
地域の医師が助け合っているわけですね。ところで先生が考える「かかりつけ医」とは、どういうものですか。専門的なものは病院に紹介し、一般的な軽い病気は引き受けるという感じでしょうか。
守 患者さんのほうではそういう区分けをしていないようです。例えば夜に具合が悪くなったら、私を起こすのは悪いからと、24時間体制の旭中央病院の救命救急センターへ行く。そして朝になったら「昨夜きつかったから、旭中央で薬をもらったんだけど……」とうちにやってくる。うちは当直看護師がいるので、夜でも電話が来れば対応できますが、患者さんの方で遠慮するようです。奥ゆかしい人が多くて、私に気を遣ってくれるんです。