地域医療ニュース

第15回千葉県脳卒中連携の会

テーマ「いき方」を支える連携

 この連携の会はコロナ禍の第12~14回はオンライン開催でしたが、令和5年5月にコロナ感染症は5類扱いとなり、第15回は久しぶりに対面開催とさせていただきました。昨年のアンケートより、テーマは、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)を題材とし、「いき方」を支える連携としました。「いき方」という言葉には、LiveとDie 『生き方』と『逝き方』双方の意味を持たせています。「死を見つめて、今をどう生きるのか」「そのためには私たち医療者はどのように関わっていくのか」その実践について、学び、考えることを目標としました。

【特別講演】では、東京大学大学院人文社会系研究科死生学・応用倫理センター 上廣講座 特任教授 会田薫子先生から「意思決定支援とはー共同意思決定とACP」のご講演をいただきました。
ACPが事前指示書と捉えられている部分があるが、それはACPの一部分にすぎない。日本には事前指示に関する法的整備がなく、文書を作成することよりはその過程が大切であること、あくまで、本人にとって最善とは何か、本人を中心に家族等や多職種が一緒に考え、悩みも共有しつつ、適切な意思決定プロセスをたどり合意を形成すること、代理決定者はあくまで本人の意思の「代弁者」という立ち位置であること、多職種は相互に敬意をもって協働することなど、私たちが目指すべき意思決定支援に関して具体的にお話しいただきました。

【分科会】職種別・入退院支援部に分かれて分科会を行いました。
 「リハビリテーション職分科会」では、3人の演者が症例報告・活動報告を行いそれぞれの学びにつながりました。
○「急性期病院におけるACP」~トルソー症候群の1症例を通して~
○「地域における勉強会に関する意識調査」心不全に関する勉強会の満足度について
○「リハビリテーション×栄養」重要性の認知度について

 「薬剤師分科会」では、テーマを「薬剤師の視点で考えるACPについて」とし、2人の演者から発表がありました。麻薬に対する本人の不安への対応や医師の説明などの確認の必要性が挙げられました。

 「入退院支援分科会」では、テーマを「つなぐ・つなげる・つながるACP ~もっと知りたいお互いの気持ち~」として、行政・在宅事業所・医療機関従事者でグループディスカッションを行いました。ACPは困難と思っている人が多かったものの、病状の変化と共に気持ちにも変化が起こる事、ライフステージに併せた対応が必要という認識を共有しました。

 「栄養士分科会」では、診療報酬に対応するため「栄養シートの改定について」話し合われました。令和6年度に向けて、整備していく予定です。

 「看護職分科会」では、「いき方」を支える連携 ~意思決定支援におけるジレンマ~として、会場全体で話し合いました。脳卒中患者の経過を例として、本人の意向を伝える事の難しさ・高齢やメンタル疾患の併発の場合、本人と家族の意見が異なる場合など、現場でのジレンマを振り返り、同時にACPを整理するために地域で使っているツールやシステムなどについて、情報共有しました。

 「医療ソーシャルワーカー分科会」では、テーマを「最期まで本人が望む「いき方」の選択について~支援者として何が出来るかを考える~」とし、事例をもとにグループワークを行いました。自分の事としてACPを考えること、それがベースであることを学びました。

 「医師分科会」では、国際医療福祉大学教授 荻野恵美子先生にマネージメントいただき、テーマを「ACPを考える ~ロールプレイを通して~」として多職種によるグループワークを行いました。脳卒中を起こし急性期に運ばれた時のACP、急性期が落ち着き回復期に移行する時のACPの場面が設定され、医師・看護師・本人・家族など自分の職種ではない役になりきることで、お互いの立場と思いを体験しました。荻野先生からは普段の外来から患者さんに声をかけていること・本人の意思が確認できない時には、本人だったらどう思うかと推定すること・一人では決めず、皆が発言する機会を作り、チームで考えることなどの具体的なお話をいただきました。

【モデル事業報告】本事業は3年毎に事業改編しており、第15回となる今回は一つの区切りと年となります。当事業の一環として、各地区医師会や病院に入退院支援や疾病管理などの支援を行っていますが、支援後、事業がどのような展開になったのか、現状はどのようになっているのかなど、この15年の経過を各地区医師会からお話いただきました。

○千葉市医師会 理事 田那村彰先生
 平成30年に入退院支援検討委員会が発足、病院連携室窓口一覧、名刺入れ付きお薬手帳カバーの作成、「入退院支援の手引き」を発行し、現在も活動を継続している。

○松戸市医師会 沼沢祥行先生
 「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施」事業として、松戸市より委託。国保データベース(KDB)を利用、令和4年度は「骨折の二次予防」をテーマとし、骨折歴があるものの適切な骨粗鬆症の治療が行われていない対象者を抽出し、サルコペニアやフレイルの測定を行った。事例検討を行い、保健指導への提供につなげている。令和5年度には糖尿病性腎症重症化予防も追加となった。在宅医療・介護連携支援センターが共同利用施設として、機能を果たしている。

○香取郡市医師会 副会長 鴇田純一先生
 香取市と香取郡3町へ対応。平成29年「香取地域の医療と介護がつながる委員会」発足し、千葉県地域生活連携シートを活用した「香取地域入退院支援ツール」「活用マニュアル」を作成した。その後、「香取地域在宅医療体制構築運営会議」に引き継がれた。この事業の一環とし、県立佐原病院に「かとり地域在宅医療支援センター」を設置、レスパイトを含む、バックベットの患者登録制度を開始していた。しかし、令和4年度で県の事業が満了、香取市が継続したが、それも令和5年度以降、補助が認められず、打ち切りとなっている。

○山武郡市医師会 さんむ医療センター整形外科部長・医務部長 石川哲大先生
 「骨粗鬆症性大腿骨近位部骨折二次予防のための地域での情報伝達システム構築の試み」診療報酬における大腿骨近位部骨折患者に対する、診療報酬が明確に位置づけられた。骨折後の骨粗鬆症の評価と治療が開始されているが、治療の退院後の継続が問題となっている。既にさんむ医療センターの骨粗鬆症リエゾンサービスチームでは、取り組みが始まっていたが、骨粗鬆症治療の地域における継続のため、地域と多職種を巻き込んだITシステムの導入を検討している。

○市原市医師会 会長 中村文隆先生
 平成26年から本事業に参加し、在宅介護連携推進会議において、地域生活連携シートを核とした「入退院支援の仕組みづくり」を行った。施設・病院など入退院にかかる施設の認識は現在でも比較的高い状況にある。今後も事業継続していく。

【総括】千葉県脳卒中等連携意見交換会代表の古口徳雄先生より、ACPについては、千葉県地域生活連携シート、心疾患患者支援手帳、脳卒中患者支援手帳などでも注力してきた内容であり、今回のテーマとして取り上げ改めて意思決定支援について理解を深めた。4月から「働き方改革」が施行され、多くの病院で宿日直許可を申請するなど対応に迫られているが、特に夜間救急への影響などが懸念される。次年度以降、この連携の会の場でもそれらの影響を多職種、多施設で共有しながら、対応していく必要がある。

 当日は413名というたくさんの方々にご参加いただきました。本当にありがとうございました。

 この会は東京湾岸リハビリテーション病院を事務局とする意見交換会を準備会に位置づけ開催されています。この意見交換会にも毎回150名近くの方が、ご参加いただいています。御尽力くださいました沢山の関係者の方々、ご講演、ご発表をお受けくださいました方々には、この場をお借りしまして厚く御礼を申し上げます。

第15回千葉県脳卒中等連携の会_参加者数413名
(内訳)医師50名、歯科医師・歯科衛生士3名、薬剤師37名、看護職83名、
    リハビリテーション職86名、管理栄養士・栄養士28名、MSW97名、
    福祉職・ケアマネジャー19名、行政・医療団体・事務等10名

千葉県医師会理事 松岡かおり

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 第15回千葉県脳卒中等連携の会 冊子(3.18MB)
 講演「千葉県脳卒中等連携の会~総括~」(7.18MB)