地域医療ニュース
第11回千葉県脳卒中連携の会について
文/千葉県医師会理事 松岡かおり
今回、第11回目を迎えたこの連携の会はいつも悪天候が付きまとうことが多く、今まで雪や大風を乗り越えて開催して参りました。今回の開催日は2020年2月16日であり、2月3日にクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に入港、新型コロナウイルス感染者が続々と出てきていた時期でした。前回700名を超える参加者がいた会でもあり、感染機会となる不安がありましたが、海外発生期から国内発生期への間と捉え、決行に踏み切りました。
2019年の秋、千葉県では台風のために大規模停電が起こり、多数の医療機関が被災しました。その教訓を生かすため、またその時の問題点を洗いだし、次につなげるために、今回は災害時の連携をテーマにしました。メインテーマは「ときどき入院、ほぼ在宅」のまま、サブタイトルも~生活の支援と再建~と前回と同様にして、大きな主旨は変更せずに、演題やシンポジウムの中で「災害」を取り入れていく形としました。
構成は例年通り、午前は専門職別分科会に分かれての研修、午後は全体会としています。
第一部、午前の分科会はリハビリテーション職・薬剤師・医療ソーシャルワーカー(以下MSW)・栄養師・看護職・入退院支援・歯科医師・医師に分かれて行いました。リハ職分科会は千葉県を3地域(県北・県央・県南)に分けてアンケート調査を行い、CAMP―Sの現状と課題に触れました。薬剤師分科会ではお薬手帳と薬剤シートの棲み分けが検討されました。MSW分科会では一つの事例を急性期・回復期・在宅ケアマネとリレー式で発表し、それぞれの支援や役割を学ぶ場となりました。栄養師分科会では「Inbody」を活用した栄養管理に注目し、研修が行われました。看護職分科会では「地域生活連携シート」の理解を深め、その普及を目指し、事例発表・グループワークが開催されました。入退院支援分科会は今回2回目の開催となりますが、テーマを「在宅からの通知表」とし、入退院支援事業のモデル事業となった地区でどのように連携が進んだのかの実際を聴く場となりました。ここにはたくさんのケアマネさんの参加をいただいたとのことでした。歯科医師分科会ではテーマ「被災時に何が起きるのか、何が出来るのか、何をすべきか」とし、災害時における歯科医師会や歯科衛生士の役割についてご講演をいただきました。
医師部会では、テーマ「これからの災害時連携」とし、多職種カンファレンスを行いました。課題についてご意見をいただいたので、一部ご紹介します。
①停電時の外部との連携について
EMISを使用する・医師会ごとにSNSでつながる・日頃の個人的な付き合いを密にする・実際に自分の足で駆けつける 等
②地域での連携・安否確認などについて
病院前救護所の設置・保健所の役割強化 等
③災害時予定されていた転院について
入退院をストップすることを事前に取り決めてほしい・被災地の病院は出せる患者・帰れる患者を出して、急患を引き受ける空床を作る 等
④在宅人工呼吸器の患者管理について
どこが電源車の配置を取りまとめるのか・優先順位に人工呼吸器を取り扱っている病院も入れてほしい。人工呼吸器の取り扱いをまとめている所が明確でなく、情報の共有と搬送手段の確保が課題 等
⑤自家発電がもたない
夏の場合熱中症対策・燃料の確保と継ぎ足し・3日くらいしか持たないという認識は必要 等
⑥備蓄食料について
災害時は冷蔵庫にあるものから先に消費する。がれき・本で炊き出しを行う・通常の備蓄はローリングストックを検討・災害に遭わなかった他の病院からの備蓄をもらう 等
グループワークでは実際の課題と対応について、様々な意見が飛び交いました。その後、被災地の一つである安房保健所の野田所長に当時の状況と県の体制についてお話をいただき、第一部は締めくくりとなりました。
第二部では、主催者である千葉県健康福祉部 渡辺真俊保健医療担当部長、千葉県医師会 入江康文会長(代読)海村孝子理事)の挨拶の後、「基調講演」「シンポジウム~災害時の連携~」「モデル事業報告」「分科会報告」「総括」を行いました。
「基調講演」では日本医師会常任理事 石川広己先生から「“新しい災害”への対応~台風・豪雨災害に対する医師会活動」のお話をいただきました。令和元年台風15号・19号による被害の概要と災害時のJMAT活動についての報告、「地域包括ケア・医療・介護連携を中心とした街づくりこそ最大の災害対策」が基本になるだろう、というメッセージをいただきました。COVID-19も新しい災害の類型として位置付けられるということは、納得のいく言葉でした。
「シンポジウム」では急性期・回復期・老健・在宅それぞれからどのように被災し、どのように対応してきたのか、今後の課題も含めてお話をいただきました。
君津中央病院では、DMAT活動拠点を置いて活動した経緯と患者搬送について、自院BCPのみならず地域の医療圏全体のBCPを考えねばならいこと、情報収集と情報交換の手段の確保などが挙げられました。季美の森リハビリテーション病院からは交通網の遮断と停電による自院のBCPについて、老健クレインからは浸水被害と停電、LINEによる情報共有をおこなったことなどが発表されました。亀田ファミリークリニック館山では台風15号後に災害対策マニュアルを作り、紙ベースとクラウド化で対応し、医学管理者リストを作成、19号では人工呼吸器・HOTの事前入院・安否確認・衣食住の確認などの患者支援を行うことができたとのことでした。
「モデル事業報告」では、①習志野市医師会 ②松戸市医師会 ③柏市医師会 ④香取郡市医師会 にご発表頂きました。習志野市医師会からは「習志野入退院支援委員会」を設置したこと、退院前カンファレンスには地域生活連携シートB表をできるだけ使用することを申し合わせたとのこと。松戸市医師会からは在宅と後方支援病院との連携、特にサブアキュートの入院依頼に対し議論を行い、入院相談は平日15時までにすること、夜間土日の場合は在宅での治療を開始することなどが申し合わされました。柏市医師会からは、「スムースな在宅移行と急変時等の病院との連携」と題し、病院において、病院職員と在宅多職種でグループワークを行い、それぞれの役割の具体的なイメージ共有したとのこと。香取郡市医師会では「香取地域の医療と介護のつながる委員会」の3年間の取り組みの発表があり、最終年は回復期・療養型・施設との連携も行い、「香取地域における入院から退院までのフロー」を完成し、地域生活連携シートを活用する土台を作り上げたとのことです。
最後に「分科会報告」と「総括」が行われました。「総括」では入退院時支援推進委員会の委員長、古口先生からお話を頂きました。「平成」から「令和」への区切りの年、千葉県では台風被災の爪痕が残っている中、緊急テーマとして「災害時の連携」をあげたこと、本日の討論では災害時での「自助」「公助」「共助」と共に、日ごろの連携の重要性を示唆されたこと、今後は「脳卒中・循環器病対策基本法」が制定されたことにより、具体的な施策が出てくるであろうことなどのお話をいただき、閉会となりました。
新型コロナ禍の中、不安がありましたが、総勢約640名の参加となりました。まだ、この時点での感染対策は明確になっておらず、マスクを着けてご出席いただいたのは約半数程度の方でした。この会がクラスターになく、安堵しております。この翌週からは県医師会の集まりはほとんど停止し、会としての活動も自粛に入ることになります。新型コロナ流行直前の最後の大きな講演会となりました。
今回、皆様のお陰で会が盛会のうちに終えることができました。本当にありがとうございました。
最後になりますが、この会は有志として多職種が集う千葉県脳卒中等連携意見交換会が中心となって、開催されています。事務局を務めていただいている東京湾岸リハビリテーション病院の近藤国嗣院長始めスタッフのみなさま、関係者の方々には改めてこの場をお借りしまして御礼を申しあげます。
千葉県医師会理事 松岡かおり
PDFファイルダウンロード
モデル事業報告(習志野・松戸・柏・香取地区)(31.7MB)
第11回千葉県脳卒中等連携の会 冊子 (4.71MB)
講演「千葉県脳卒中等連携の会~総括~」 (4,483KB)
当日の様子(写真) (1.38MB)