医療現場からの提言

2017年

vol.04 “おなかの住人”大切に

最近「腸内環境」や「腸内フローラ」といった言葉をよく耳にするようになり、健康維持に「腸」が注目されているようです。詳しく教えてください。

宍倉:

私たち一人一人の腸の中には、100兆以上の細菌が住みついています。その数は地球上の人口の実に1万倍以上。1人の腸内細菌を全部合わせただけで重さ1~2キロにもなります。この腸内細菌たちは、互いに競い合ったり協力し合ったりしながら、独自の生態系をつくっており、その生態系をお花畑に例えて「腸内細菌フローラ」と呼びます。

この腸内細菌たちは、私たちが食べたものをエサにして生活しており、私たちがどんな物を食べるかによって、細菌の種類や数も変化していきます。人間の生活が地球温暖化や砂漠化の原因になることと同じように、腸内細菌たちの生活に伴い作り出される物質も、私たちの健康に大きな影響を与えます。

具体的にはどんなことでしょうか?

宍倉:

細菌の中には、野菜などの食物繊維から太りにくくなる物質を作り出すものや、逆に、タンパク質から発がん物質を作り出すものもあり、最近は、体に良い働きをする菌を総称して「善玉菌」と呼んでいますが、実際は全ての腸内細菌を単純に善玉・悪玉に分類することはできません。

大部分の菌は環境により善玉としても悪玉としても働くことが分かっており、微妙なバランスを保ち共存していくことが大切なのは、人間社会と同じです。そのバランスが乱れると、私たちの体は影響を受け、健康を崩したりします。核戦争が起きると、地球自体が滅んでしまうのと同じように、腸内細菌たちの平和が乱れると、死に至る重い病気になることもあります。

最近では、特定の病気に共通する腸内細菌フローラが見つかっており、健康な人の腸内細菌を移植することでその病気を治そうという試みが国内でも始まっています。まだ研究段階ですが、それほどまで腸内細菌は注目されているのです。

おなかの中で腸内細菌はとても重要な働きをしているのですね。食事のときに少し意識してみようと思います。

宍倉:

どんな食事が健康に良いか、その答えは腸内細菌が握っているのかもしれません。腸内細菌フローラは人により異なっているため、最適な食事も人それぞれですが、食べ過ぎを控え、バランスの良い食事を心掛けるなど自分の体調と相談しながら食事をすることが大切です。

現代人に不足している野菜を多く取るなど、苦手な食べ物を無理に食べることは苦痛かもしれませんが、「私たちの健康を守ってくれるかわいい腸内細菌にエサをあげる」という気持ちになると、食事に制限があっても楽しくなるのではないでしょうか。

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