医療者から見た地域医療のいま

いすみ市が存続していくために医療費を抑える
糖尿病予防事業について、市長に聞く

2011.11.02   文/梅方久仁子 写真/中西 昭

国民健康保険税を引き下げて、
住みやすい市にしたい

太田 それから、いすみを住みやすい市にするために、国民健康保険税の負担を低くしたいと思っています。

 いすみ市では、若い世代に移住・定住してもらえるように、いろいろな努力をしてきました。おかげで現在、転出者より転入者が上回ってきています。せっかくいすみに魅力を感じて来てもらった人たちが、ずっと住み続けたいと思う市にしたい。そのためには、税負担を少なくしたい。でも、いすみ市は地方交付税の交付団体ですから、名古屋市のように市民税を10%下げるというわけにはいきません。そこで、せめて国民健康保険税(国保税)を下げたいと思います。

 いまは組合健保に加入している方も、定年退職すれば国民健康保険の被保険者です。年金生活で、年間何十万円も国保税を払うのは、非常に大きな負担ですよね。それに、いすみ市全体で生活習慣病が減れば、組合健保の加入者にもメリットがあるはずです。

 ところが国民健康保険の財政は厳しくて、今年度は国保税を上げざるを得ませんでした。医療分は所得割(加入者の所得に応じてかかる税額)、均等割(加入者一人ひとりにかかる税額)、平等割(一世帯にかかる税額)がすべて上がり、課税限度額は法定限度額の77万円になりました(医療分51万円、後期高齢者支援金分14万円、介護分12万円)。「なぜこんな時期に上げるんだ」という苦情が、市民からかなり寄せられています。そこで、「いまはやむを得ないけれども、少し時間をください。一生懸命努力をして国保税を下げますよ。将来的には、千葉県で一番国保税が低い市町村にしますよ」と言いたいんです。

透析患者が増えれば、市の財政がパンクする

糖尿病に注目したのは、特に糖尿病が医療費増の原因になっているということでしょうか。

太田  その通りです。糖尿病が重症化すると、さまざまな合併症が起こり、合併症の1つ1つに医療費がかかります。中でも問題なのが糖尿病性腎症で、重症化すると人工透析が必要になります。透析をすると1人当たり総額で年間500万円弱の医療費がかかり、そのうち約340万円を医療保険が負担することになります。

 平成22年11月時点、いすみ市で人工透析を受けている患者は111名で、そのうち国民健康保険加入者は64人。ということは、64人×約340万円で、国民健康保険から1年に約2億2000万円が透析のために支出されるわけです。

 試算によれば、このままでは5年後には1.48倍が透析になると見込まれ、そうなると支出は膨れ上がります。いすみ市の透析患者が増加傾向にあることは間違いなく、これがもし200人にもなれば、国民健康保険の財政は破綻し、同時に市の財政の破綻にもつながります。